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『なんかあるぞ! 国連ボランティアーカンボジア選挙監視員の野次馬ノート』 [読書]

昨日の日記でちょこっと触れた本です。

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ちょっと前に買って月曜日に電車の中で読み始めたのですが、これが…いろんな意味で「大変な」読書になりました。できるだけ簡潔に書くと要点は以下の2つです。

・当時のカンボジアの状況が、読んでいてげんなりする
・著者の文章と行動様式が、読んでいてげんなりする

まず当時のカンボジア。著者が国連ボランティアとして渡航したのは1993年、長い内戦終結のほんの2年後です。社会の貧困と混乱は想像を絶するものすごい状態です。当然、国連によるボランティア活動も思い通りに進みません。任期中の最悪の事件は日本人ボランティアの中田厚仁さんが殺害されたこと。そして、あろうことか国連ボランティアが交通事故で現地の人を死に至らしめた事。他にも治安面での問題は山積みで、何人もの国連ボランティアが任期途中でそれぞれの国に帰国してしまったとのこと。泥の川を泳ぐようにして、国連ボランティアたちの活動は続きますが、どれだけやっても目に見える成果がほとんど出ない状況は、17年後の一読者としても打ちのめされます。

しかし…

わたしがもっと残念だったのは、この著者の上田省造さんの文章です。
国連ボランティア関連の書籍だから、なるべく文句は言いたくないのですが…でもまずいものはまずいということで、以下に問題点を記します。


【問題点(1)語学に弱い】

・「クメール・ヴェルディ」という章の表記(p.14)
→「クメール・ルージュ」にひっかけて「緑の国」を表そうとしているのですが、「ルージュ」がフランス語なのに「ヴェルディ」はイタリア語です。なぜバラバラ?

・「スペイン語でヤマモトは「すでに俺のバイクだ」という意味(p.22)
→間違ってます。正しくは Ya mi moto (ヤモト)です。フランス語の俺の=maと混同?

序盤からこんなふうに外国語の基本的なミスが相次ぎ「この人、言語習得が苦手なのではないだろうか」と思わせるのですが、案の定、こんな記述があります。

「UNTACのカリキュラムでは、これ(注:現地の言葉クメール語)を六週間で習うことになっており、「不可能」と判断して、いち早くギヴ・アップした。」(p.30-31)


簡単にギブアップするなー!

と電車の中で叫びそうになりましたよホント。私費留学ならともかく、授業料は国連予算の中から出てるのにもかかわらず、それをあきらめるとは。そもそもこのカリキュラムは現地で効果的にボランティア活動ができるようになるためのものなのに、それを放棄してしまうとは、もはやボランティア活動自体を拒否しているような印象を受けてしまいます。


【問題点(2) なんか現地の人を嫌っている】

この後、著者は英語のみで活動を続け、あろうことか現地の人は英語が下手だという「ネタ」を何度にもわたって披露します。彼曰くクメール人(カンボジアで一番多い民族)はプライドが高く、非生産的だとか。赴任して4ヶ月後にはこんな台詞が飛び出します。

「…初めて、地平線に沈む夕陽を見た。「神々の黄昏」だ。四ヶ月にもなるのに、その時間帯はいつもオフィスにいたので、うかつにも知らなかった。(中略)神々しいまでの光のペイジェント、雄大、壮大。神が存在するものなら祈りたくなるような、ミレーの『晩鐘』を彷彿する(*ママ)、荘厳にして厳粛な刹那だ。

クメール人は毎日こんな贅沢なものを見ているのかと思うと、腹が立った」(p.66-67)


げんなり。もうほんとにげんなりです。長かった内戦、いまだ大量に残る地雷、まだまだ不安定な政情と、何も持たない恵まれない人々に向かって「きれいな夕陽を見ている」と言って腹を立てるとは。書く方も書く方ですが、載せる方も載せる方です。編集者はこれでいいと思ったのでしょうか? ハードカバー版が出た時に誰も指摘しなかったのでしょうか?

その直後の75頁では、著者が赴任先で、現地の人々のように水は雨水を貯めて使い、トイレはなし(自然に還すとのこと)の生活をするのがイヤで、井戸と水洗トイレを新設させるという下りがあります。現地の人々が雨水を飲んでいるのに、自分は水洗トイレで水をザーザー流すことに対して、特にコメントはありません。わたしなら「自分だけ贅沢せずに、くみ取り式でもいいから共同トイレでも設営してあげたらどうだろうか」とか思ってしまうのですが、やっぱり現地では事情が違うのでしょうか。

最初の2章が随時こんな感じなので、「ダメだろうなあ」と思ってしまうのですが、頑張って最後まで読みました。第3章から、いよいよ選挙関係の出来事が中心となり、読み応えが出てきます。ただ、第3章の「キリングフィールド・フォーエヴァー」というタイトルはないと思います。たぶん著者は「キリングフィールド(カンボジアのいたるところにある虐殺現場)を忘れてはいけない」と言いたいのでしょうが、これだと「永遠に虐殺は続く」みたいに読めてしまいます。

あと、日本の自衛官が英語ができない事をネタにする場面もありますが(わざと英語で話しかけて困惑させる)、その後には他国ボランティアに「人選はどうなっているの? 国際機関にくる以上、最低限英語が話せないとねェ…」(p.243)と突っ込まれる場面を収録。他人事みたいな書き方をしていますが、それはあなたに向けられていた台詞ではないのかと思いました。



【問題点(3) 素行】

「現地では誰でもやってる」とか言って飲酒運転したり、二輪タクシーを自分で運転して転んでケガしたり、アンコールワットの遺跡で穴に落ちて入院したりしたそうです。また、フロッピーディスクが無くなった時に同じオフィスの人々の机を開けて廻ろうとして、上司にたしなめられたり(同僚を泥棒扱いするなということ)。他にも枚挙にいとまがありませんが、書いててまたげんなりしてきたのでこのへんで。


【まとめ】

華々しく英雄的な「国連ボランティア」のイメージとはかけ離れてはいますが、逆にそれが貴重な資料となっていると思います。がっかりする内容が多く、決して楽しい読書ではなかったものの、包み隠さない真実を知ることができる本、と考えると資料的価値があると思います。こんなことしてたのか、という。



なんかあるぞ!国連ボランティア―カンボジア選挙監視員の野次馬ノート (講談社文庫)

なんかあるぞ!国連ボランティア―カンボジア選挙監視員の野次馬ノート (講談社文庫)

  • 作者: 上田 省造
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/02
  • メディア: 文庫



(余談)
「水田がマラリアの発生源となったためスペインでは米は食べなかった」「ヨーロッパでは米作は根付かなかった」(p.68)という記述がありますが、部分的に間違っていると思います。

確かに中世スペインの権力者はマラリア防止のため水田を禁止しましたが、農民の間では農地として使い道の無い湿地で、こっそり米作が続けられていました。なお、バレンシア地方には伝統料理のパエリヤ(米)があります。

そしてスペインに上陸した稲作は、後にフランスとイタリアにも伝播しました。イタリア東北部(トリノを中心としたピエモンテ地方)では特に広まり、伝統料理のリゾットがあります。スペインでは米を食べていましたし、米は南ヨーロッパには広まりました。

(余談の余談)
p.108にある「Soy Jan, vamos a trabajar contigo」(私はヤン、一緒に働こう)というスペイン語も間違っています。語りかけているのは一人の人で、一対一の会話なのに、「我々はあなたと働こう」となっています。正しくは、

Voy a trabajar contigo」(私はあなたと働こう)
もしくは、
「Vamos a trabajar junto」(私たちは、一緒に働きましょう)
になるはずです。

日本人がカンボジアに行くドキュメンタリーで、スペインの話をあちこちで持ち出すのがそもそも間違いなのでは、と思ってしまいます。でもこの方、奥様はスペイン人だということなんですよね…

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Reika

ふふふ、こんな本読んだら、私も「意地悪ツッコミ心」が炸裂しそうです。
読もうかな。あ、買うのはもったいないから、もちろん図書館。
こういうタイトルの本って、図書館に絶対においてありそうですよね。

by Reika (2010-07-17 12:52) 

管理人K(3X歳)

>>Reikaさん
こんな本、めったに巡りあえないですよ。

最初は「ひどい本つかんでしまった」って思ったのですが、数日間の時を経て、「よく考えると、ここまで書いてる本は珍しいぞ」と気付きました。普通国連ボランティアだったら失敗談は語らないはず。某国のボランティアが現地の人を轢き殺して、逃げるように帰国してしまうとか、普通は絶対隠そうとするはず。

ボランティア期間後は再就職が保証されていないにもかかわらず、こんな本を出してしまうとは、著者の勇気に感服しました。もう国連では働けないと思います。というわけで、これはきっと告白&悔悟ものなのですよ。是非探してみて下さい、そして、その赤裸々さに感動して下さい。
by 管理人K(3X歳) (2010-07-17 23:26) 

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