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バレンタイン・イヴの苦難  [旅行]

これは2月13日の物語。

バレンタインデーに備えて、大阪で週末を過ごすことにしました。いつもだったら金曜の夜に夜行バスで東京を出て、朝イチでGFと合流するところなのですが、彼女は日中予定があったので土曜の朝発の昼行バスを予約しました。9:30am東京駅発、17:36大阪駅着、片道4210円なり。実はJR系の高速バスネットを使うのは今回初めてですが、なかなかのお値段で。

で、乗ってみると2階部分に乗るようになっていました。見た感じ、4列の座席が前から後ろまできっちりと詰まっている2階席がエコノミー、ちらっと見えた1階の座席がもっとゆとりがあって値段も高いのでゃないか、と思いました。天井に頭を打たないよう若干前屈みに、2階を移動する筆者。これはちょっとつらい。まあいいか、どうせ座ってる時間が大半だし。そう思いつつ自動割り振りされた席番号「1B」に向かいます。ちょっと待てよ、数字が「1」と言う事は!? なんと2階の最前列、正面はガラスで走行中の景色がバッチリ見えます。遠距離恋愛も終息(♪)に近づいたところでこのような僥倖! これはまさに天が(以下妄想略)

ところが、発車まぎわにして、その高揚感は大きく揺るぐことになるのでした。突如、1階からの階段を駆け上る足音がしたかと思うと、2階席の通路をあわただしく、いきせき切って走って来る物音。我慢できずに振り向くと、やはりというか、20代前半くらいのメガネをかけた男性がゼエゼエハアハア言いながら筆者の脇に立っているではないですか。

「ハアハア、あ、あの、ハアハア」

何も言わずにバッと席を立つ筆者。しかし、席を立っても特に十分なスペースができたわけではなく、ちょっと間がありましたが、とにかく息の荒い男は「1A」の席にすべり込んでゆきました。どおっと激しくシートに体を沈め、まだゼエゼエハアハア言っています。

(今ものすごい勢いで座ったが、後ろの席の人は大丈夫だっただろうか・・・)

などと思っていた筆者でしたが、今思えば、自分の心配をしておくべきだったと思います。

* * *

「1A」の男はまず、荒い息のまま携帯チェックスタート。そして、携帯とは別にブラックベリーまで取り出し、何かしています。ひょっとして筆者の同僚みたいな、「海外滞在が長くてたまに日本人離れしたことをするものの、仕事はバリバリ出来て、休日でも仕事用のブラックベリーを携行している外資系社会人」ではないかと思いました。っていうかそうあって欲しかった。しかしブラックベリーはすぐ男のデイバッグに引っ込み、代わりにiPod Nanoが出てきました。目を背けることができずにいると、携帯電話の受信メッセージはすべて「Yahooオークション」からで、生身の人間からは一通もきていません。iPodの方の画面は見えにくかったもののどうやらアニソンのようです。なぜなら、それっぽい音楽が盛大に音漏れしていたから。ううっ、うるさい・・・

改めて彼の全身を横目で観察する筆者。黒いジャンパーみたいなジャケットを・・・まだ着ていますね。まあそれはそうとして、その下はチェックのシャツのようです。腰から下はジーパンにスニーカーですね。髪型はマッシュルーム風と言うかそんな感じです。顔立ちもそれなりに若いので、さすがに社会人じゃないか・・・っていうか席についてから数分間経過しても、まだゼエゼエハアハア言っているので、大丈夫か? と心配になります。っていうかあごの下におろしたマスクをそろそろ付けて欲しい感じです。マスク付けてるってことは菌持ってるかもしれないわけで、そんな状態で横でゼエゼエハアハア言われっぱなしだったら困るんですが。

さて、男のヘッドフォンから漏れて来るアニソンに乗ってバスは一路、大阪に向かいます。都心を抜け、周囲から建物が減り、緑が増えて来ると、それにしてもこの男さえいなかったらなあ、と思ってしまいます。当の男もどうやら旅が進むにつれテンションが上がってきたのか、左の窓に顔を押し付けんばかりにして、なにか左手を怪しく動かしています。手首から先を上下に振ったり、何かを掴むような動作をしたり、手のひらを広げて手首をひねったり、・・・まさか「振り付け」をしているのでは!? と思ったのも束の間、

「ダァメだあ、渋滞じゃあん」

と一声。ビクッとして、もうかなりの視線を投げ掛けてしまいましたが、男は全く態度を変えずに窓の外を見ながら手首を振り回しています。

(まさか気付いていないのか? 自分が声を発している事に・・・)

そう筆者が思い至ったのは実はけっこう最初からで、男がけっこう色々な音を立てるのは、iPodを大音量で聞いているから外部の音に気付かないのでは、と思っていました。(バッグから携帯機器を取り出したり、携帯を開け閉めしたりするときに変に大きな音を立てていた)しかし、いくら何でも自分が声を発しているのに気付かないとは・・・と思ったのは一瞬だけで、なぜか男のスピーチはこのあと激化し、何と言っているのかすらわかり兼ねることをけっこうな頻度で言うようになってしまったのでした。俺が何をしたって言うんだ・・・

そうだ気晴らしだ、気晴らしをしよう! と思って、現実逃避気味に自分の携帯を取り出す筆者。Yahooメールは普通の携帯からでもチェックできて便利です。見ると、Facebookから「写真にコメントが付いた」「コメントにコメントが付いた」等のお知らせメールがけっこう来てますね。Facebookは最近また進化してまして、このお知らせメールに返信するだけでFacebook上でコメント返しできるのですよ。というわけで英語で返事を書き始めたのですが・・・

(見、見られてる!?)

すぐ異様な気配を感じて入力する手が止まりました。顔を上げず、目をほんの少しだけ動かして見ると、隣の男が顔をこちらに向けて筆者の携帯の画面を凝視しているではありませんか・・・

(英語か? 英語がダメなのか!?)

うちの社内(外資系)はともかく、日本社会ではまだ英語は珍しい・・・とわかってはいるものの、そんなに見ないでも・・・ってこれどうやって反応したらいいんだ・・・顔を上げられない・・・目を合わせるのが恐ろしい・・・これほどのプレッシャーの中でFacebookにコメント返しする日が来ようとは・・・

なんとかコメントを仕上げる頃には向こうの興味も薄れたようで、また窓の外を見てました。ああよかった。そして数時間後、バスは足柄サービスエリアで休憩のため停車。ってこりゃすごい雪だ。

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温かい車内から雪の降る中へ出ていくのがこれほど待ち遠しかったことはいまだにありませんでした。束の間の休息を味わい、車内に戻ると、隣人はまだ戻っておりませんでした。

(乗り遅れてくれねえかなあ)

そんな期待をよそに、何分かして「奴」が戻ってきました。

「ハアハアハア、ハアハアハア」

(また息を切らしている!?)

何に付け走る癖でもあるのか、それとも慢性の運動不足なのか。どちらにせよ、奴は戻って来た。そして全く同じ調子で次の浜名湖サービスエリアまで、筆者は眠ら(せてくれ)ぬ旅を続けました。

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浜名湖はなんと快晴! 同じ国の中で、バスで3時間走っただけでここまで天気が変わるとは・・・っていうか浜名湖いいですねえ。GFとふたりで来たら楽しそうな・・・

外が温かかったのでパンを買って、日差しの中で食べていたら県のリサーチをしているという方に道路のアンケートの協力を求められましたが、バスで来ている旨を告げると丁寧に「では結構でございます、ありがとうございました」と言われ、去って行かれました。ああ、普通のやり取りがなぜかむしょうに心地良い・・・

バスに戻ると、「奴」は例によって息を切らせて戻ってきました。今回異なっていたのは、座席に着くなり上着を脱いだ事。さすがに暑かったようです。そして買い物。スターバックスのカップと、みかん数個。バスが走り出すと男はみかんの皮をむきはじめ、ものすごい勢いで食べ始めました。一気呵成に全滅させてしまうと、スターバックスのカップを手に取り、上に開いた飲み口に口を近づけます。

ズズビッ


(痛ッ!!)

その車内に響き渡る「すすり音」にまるで心をひっかかれたような気がした筆者でした。ミカン直後にコーヒーと言う斬新な組み合わせなど、もはや気を払うに至りません。

やがて晴れた空は徐々にかげりを帯びてきました。時間が昼から夕方に向かう一瞬一瞬を束ねた濃密な、かといって普通なら気付きもせず見逃してしまう不思議な時間。その刻々と移り変わる空の表情が素晴らしく美しかった。横の男も、「ぐぅ〜」みたいな声をたまに出しながら、横の窓ガラスをなめんばかりにして顔をもたせかけ、見入っておりました。もちろんアニソンと独自の振り付けはONのままですが。

最後の甲南サービスエリアでは、男は団子を持って車内に帰ってきました。ひょっとしたら、各エリアの名産品をサンプルしているのでは・・・と思うと、ちょっと心がやわらぎました。ちょっと・・・いや、多分に変なところのある男ですが、うるさい以上の害はないし、移り変わる雲の様子を眺めていたときの表情は善人のそれでした。ちらっと見えた携帯電話のWebショートカットに「美少女ゲーム○○」という項目が見えた時にはちょっと引きましたが、まあそれはそれ、趣味なんか人それぞれだし、旅は誰にとっても楽しいし、

ぱきっぱきっ ペリッ パカッ

おや、それは・・・と思った瞬間、筆者の脳に吹き上がった幾百幾千のフィーリング。

(団子の箱 プラスチック 輪ゴム えっみたらし団子? 串が2本・・・みたらし? タレ? あっ持ち上がった タレがタレるぞー! いやタレないッッッ口に突入だッ 奴の)


 ずるっつ べちょっ
べちゃっ ぶちゅっ 
 ぺちゃぺちゃぺちゃ

(ああ・・・やっぱり・・・・・・)


通路をはさんだ「1C」の席に座っていた女性がこちらを凝視していたのがかなりつらかったです。明らかに自分が疑われていない状況でしたが・・・とどめに、前のサービスエリアで買ったスタバのコーヒーのふたをあけると、大半残っていたコーヒーをこれも、ぐぐっと一息で飲み干しました。食事にかける時間を最少限にとどめる本能でもあるのだろうか・・・軍人か野生動物じゃあるまいし・・・っていうかそんな飲み方するんだったらわざわざスタバのコーヒー買わなくてもさあ・・・ああ(嘆息)

結局「1Aの男」は京都で降りたので、大阪までの約一時間は消耗した精神を回復するのに使えました。遠距離恋愛がこれほど大変だと思った事は今までなかったです。いやマジで。というわけでこの晩はGFにやさしく癒してもらいましたとさ。




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