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サザエさんの名前の起源 私説と異説 [読書]

この前池袋の新文芸坐で『赤西蠣太』をやっていた。

akanisi.GIF
(1936年日活、画像は日本映画辞典ドットコムより)

「赤西蠣太」(あかにしかきた)は志賀直哉の
小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫)
という短編集に収録されている小説のひとつで、侍や隠密が出てくる時代ものだが、派手な格闘シーンなどはなくどちらかというとのんびり、ほのぼのした楽しい作品である。

筆者は見に行きたかったのだが結局見逃してしまった。その時は別にいいか、と思ったが今となると、登場人物の名前が明らかになるたびにどよめく場内の様子を想像して、やっぱり見に行けば良かったと思うのである。それほどこの話の登場人物の名前は異様なのだ。

まず蠣太(かきた)である。何とも妙な、かつ牡蠣・・・いや書きにくい名前を付けたものだ。スティーヴン・キングが自伝的作品
小説作法
の中で、「『1408号室』のホテル支配人の名前は当初もっと長かったが、自分がいずれ朗読する時に面倒くさいので短い名前に変えた」という話をしているが、志賀直哉は「蠣太」を何度も書く事を厭わなかったようである。きっと達筆でもあったのだろう。

まあそれはそうと登場人物である。侍だが決して美男ではない、いやむしろ醜男といわれる蠣太と対比する美男子の親友の名は銀鮫鱒次郎(ぎんざめ・ますじろう)。蠣太の贔屓にしている按摩師は按甲(あんこう)。極めつけがヒロインである。その若く美しい腰元の名は、なんと小江(さざえ)。

筆者はこれを初めて読んだ時に、『サザエさん』の登場人物の名前がすべて海のものになったのはこの作品からの影響だろうと思った。また、きっと平均的な日本人なら『赤西蠣太』を読めば同じ意見に至るだろうとも思った。だからこそ映画館で他の観客の反応を見たかったのだ(映画自体は二の次だったわけだが)。

ところが昨日たまたまとある本を読んでいると、こんな事が書かれているではないか。

「初期のサザエさん漫画の名品に『楽屋訪問』がある。(中略)問題はこの女形の、えびえもんという芸名である。明らかに海老蔵と歌右衛門の合成ですが、(中略)昭和二十年代から三十年代にかけて、海老蔵はすごい人気でした。そこから推定して、長谷川町子は海老蔵のひいきだったのではないかと考えられる。
 そして・・・・・・ここから大変なことになるのですが、もともとそのエビにあやかってサザエ、マスオ、ワカメなどという海づくしの命名が作中人物に対しておこなわれたのではないか。
 わたしはこの推理、かなりいいセン行ってるような気がしますね。命名のヒントなど案外こんなものなのではないか。」
軽いつづら (新潮文庫)
(丸谷才一、1993)

否、と筆者は言いたい。

まさかエビ一匹・・・もとい海老蔵ひとりの名前から磯野家及び友人知己の名前が海のものづくしになるとは思えない。鱒次郎と小江がマスオとサザエになったのはあまりにも明白ではないだろうか。しかし確証はない。こうなったら長谷川町子美術館に行きたい気さえ起こってくる。

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