SSブログ

伯父の物語 [家族・友人]

祖母の告別式の後、喪主を務めた伯父の話を皆で聞いた。
といっても、人生や命についてではなく、若い頃の経験の話だ。

某体育大学に通うため上京した伯父は、ラグビー部に入部した。
そして、ラグビー部が経営する共同宿舎(というと聞こえは良いが、いわゆる長屋)で4年間を過ごしたのだが、伯父は部屋のことを振り返ってこう言った。

「タコ部屋や」

6畳間に、畳の数を超える数の人間が布団を並べて寝る。
押入れにも一人寝ていたそうだ。
他の部屋では、押入れの上と下に一人ずついたりしたから、まだましな方らしい。

そして肝心の部活動だが、新入生への、2年生からのしごきが恐ろしくひどく、最初の一年間は地獄であったという。大学を辞めてまで逃げ出す人までいたそうだ。

しかし、伯父たちが2年生になると、状況は全く別物になった。
上級生からは特に何もされることはなく、「自分のことだけしていればいい」状態になった。
そして何より、新入生に対して、同じことをしても良い立場になったのだった。
しかし、伯父たちはこう語り合った。

「もう、やめようか。自分達がされて嫌だったことを、新入生にするのはおかしい」

新・2年生全員がその意見で一致し、伯父たちは新入部員に対してとてもナイスに接した。
おかげで「夜逃げ」も発生しなかったようだ。
これでいい、これが普通なのだ、と皆が幸せに浸っていた、その時だった。

「おい、お前ら」
「ハイ!」

伯父たちは3年生に呼び出された。

「最近、1年がたるんどるぞ」
「ハイ!」

そして伯父たちは1年生たちを一同に集め、しばらく対峙した。
日本各地から集まってきて、共に地獄の一年を乗り越えてきた皆の思いは様々だっただろう。
しばらくの間があったが、静寂は破られた。

「いてまえー!」

誰がそう言ったかはわからない、と伯父は言うのだが、「いてまえ」は関西弁だから…

いや、まあとにかく、皆が一斉に1年生を殴り、体罰の伝統はこうして復活した。
今ならニュースになってもおかしくないかもしれない。

それから約半世紀、体育教師として人生を過ごした伯父は最後にこう締めくくった。

「最近の子がアカンのは、やっぱり、体罰がなくなったからや」

悪びれもせずそう言う伯父を囲んで、皆で大笑いした。

そんな伯父だが、数年前に退職願いを提出した時は、全く引き止められずにあっさり受理され、少し複雑な気持ちになったそうだ。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。