SSブログ

Deliverance(1972):アメリカの秘境の恐怖 [映画]


ジョン・ブアマン監督 脱出 [DVD]

ジョン・ブアマン監督 脱出 [DVD]

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • メディア: DVD



久々にいい映画を観ました。

何かの拍子に「hillbilly」(ヒルビリー)という英単語に引っかかって、その結果がこの映画の視聴とあいなりました。ヒルビリーとは、どうやら「丘に住む奴」が語源で、アメリカ合衆国の山間部に住む人々のことを指すということです。そしてこの「丘に住む」という表現に差別的な要素が含まれています。外界から隔絶されて社会のことは全くわからず、服装や話法にも無頓着で、密造酒を造って飲んだくれ、挙げ句の果てには閉ざされたコミュニティの中で近親結婚を繰り返している、などと言われています。

おそらくは日本でたまに聞く「人里離れた山の中にあり、日本国憲法が遵守されておらず、一度迷い込んだら出て来る事ができない」伝説上の村と同じく、都市伝説ならぬ秘境伝説だと思うのですが、アメリカにはあまり詳しくない筆者には知る術はありません。本当にあったのでしょうか? とりあえずは、そのヒルビリーたちの登場するこの映画を観てみることになったのでした。

============
以下、映画のネタバレあり
============
主人公グループは、アトランタから休暇でやってきた4人の中年男たち。劇中では「City Boys」と揶揄されたりします。

・黒髪で、野性的で、歯に衣着せずものを言うルイス(バート・レイノルズ)
・物静かで常識人、かつアーチェリーのチャンピオンのエド(ジョン・ヴォイト)
・太っちょのセールスマン、ボビー(ネッド・ビーニー)
・長身で痩せ形、ギターが趣味のドリュー(ロニー・コックス)

見た感じ皆、30代〜40歳くらいで、それぞれちゃんと仕事も家庭もあります。


大きな地図で見る

4人の目的地はジョージア州のとある川。劇中では別な名前になっていますが、実際にはサウスカロライナ州とジョージア州の州境であるチャットゥーガ川だということです。

劇中では、アメリカ有数のこの大河が、電力会社のダム建設によって間もなく姿を消してしまうことになっています。そこで4人は、川が無くなってしまう前にカヌーで川を下り、雄大な自然を思い出に刻み込もうという休暇を計画したのでした。

冒頭のシーンで面白いのが、4人の中年が森をドライブしながら楽しげに会話しているところ。家庭や職場では言えない単語や表現、いわゆる「Fワード」もばんばん出ます。普段はいい夫であり、父親である彼らが少年にかえったかのように羽目を外しているのが、とてもリアルです。

4人は、カヌーなど装備は持っているものの、川を下った後、目的地の街まで車を届けてくれるように手配しなければなりません。旅行代理店なんてものはなく、行き当たりばったりで人を探します。このへん、一昔前らしくおおらかですね。そしてたどり着いたのは、まるでスクラップ工場のような、ボロい建物。駐車場には50年代の、動くかどうかわからない車が並んでおり、「ガソリン」と看板が出ています。ボロボロの車の一台を指差して、「おい、これは俺が若い頃に乗ってたドッジじゃないか!」と笑いを取るボビー。笑う一同。ここでいよいよ「ヒルビリー」達の登場です。

お前ら電力会社のやつか

「いや、違うよ…見てくれ、あのカヌーで川を下るために来てるんだ」

「お前らキ●●イだ」


最初の一言から緊張感をみなぎらせるヒルビリー氏。背を向けて歩き去ろうとしますが、ルイスはとりあえずガソリン補給を頼んで、引き止めます。ガソリンを入れてもらっているうち、ボビーがセールスマンらしい愛想の良さで会話の糸口を探しますが。

「あんた、その帽子いいね、かぶり方が特にいい」

「お前に何がわかるか」


取りつく島なし。
しかし、気まずい雰囲気を打破するかのようなギターの音色が。
長身で眼鏡をかけた主人公の一人、ドリューが、ガソリンスタンドのデッキに座っていたバンジョー弾きの男の子と競演を始めたのです。



これが秀逸です。これをきっかけにシティボーイズはヒルビリー達と打ち解け…ないんですねこれが。

ちなみにこのバンジョーの男の子、様子が少しおかしく、主人公の一人が「先天的な障害…」と言いかけるシーンがあります。「ヒルビリー=近親結婚→障害児が生まれる」というステレオタイプな考えがほのめかされています。

気まずい雰囲気が続く中、4人はなんとか、車を運んでくれそうな兄弟を紹介してもらいます。

「カヌー? 何をする気であの川に行くんだ?」

と猜疑心丸出しの兄に、ルイスは

「そこに川があるからさ」

と秀逸な返答。しかし良い反応は返ってこず、常識家のエドは「もう街へ帰って、ゴルフでもやろうぜ」と予定変更をほのめかします。しかしルイスは強引に商談をまとめ、4人とヒルビリー兄弟の一行は川へ向かいます。

ここからが見所。2艘のカヌーで楽しげに川を下る4人。昔の映画なのに見事な映像だな〜…と思っていたら、そう言えば、1972年だからCGではないはず。生の映像ならではの良さだと思えば納得です。
(※追記:スタントマンも使わず、すべて俳優たち自身がやっているそうです)

無事1日目の川下りを終え、キャンプを張り、キャンプファイアーを囲んでくつろぐ4人。もちろん、ギター好きのドリューが音楽を奏でます。

ボビー「お前の言ってたことは本当だな…森と川には、俺たちが街で無くしてしまったものがある」
ルイス「無くしたんじゃない、売り払っちまったのさ」

そんな会話をしながら、夜は更けていくのですが、ここでルイスが「物音が聞こえた」と少し席を外します。結局何もないのですが、翌日、この不吉な感じが具現化するのでした。旅を再開し、順調に川を下る4人。しかし、それぞれ別々の岸に別れて休憩をしている時、事件は起こります。

ボビーとエドの休憩しているところに、2人のヒルビリー達(村にいたのとは別人)が現れ、敵意をむき出しにして詰問します。

「何をしてるんだお前ら」
「アイントリーの街までカヌーで…」
「アイントリーだと? この川はアイントリーには行かん」
「でも、どこかには出るだろう」
「どこにも行かねえよ」

二人組の敵意の根源を推測したエドが割って入りますが、これが逆効果。

エド「このへんで蒸留所か何かやってるんだよな。俺たちには関係ないから」
ボビー「そうそう、関係ない。いや、自分たち用に買ってもいいかな」
男達「何だと?」

自家製ウィスキー(密造)についてほのめかすと、男達はさらに疑い深くなり、ついに二人に猟銃とナイフを突きつけます。そしてナイフの男からボビーに衝撃の命令が。


「お前、ズボンを脱げ」
「え!?」



このあとえらいことになるのですが、詳しくは語りますまい。


しばらく経って様子を見に来たルイスが「このままだと2人とも殺される」と判断し、アーチェリーの矢で男達の一人を殺害。もう一人は逃亡しますが、男の死体を前に、4人の間にいさかいが起きます。信心深いギター弾きのドリューは神に祈りながら、死体をカヌーに乗せて街に運び、しかるべき裁きを受けるべきだと主張します。しかし矢を放った当のルイスは、「こんなとこで裁判所なんか行ってみろ、裁判長も弁護士も陪審員も全部こいつの親類で、勝てる訳ねえだろ」と拒否。「ダムの底に何が埋まってても、誰も気にするわけがねえ」と死体を埋めて何もなかったことにすることを提案します。

口論するドリューとルイスですが、決着はつかず。ルイスはこう提案します。

「ドリューお前、民主主義を信じるか」
「あ、ああ、当たり前だろう」
「じゃあ多数決で決めようじゃねえか」

多数決の結果は3対1で、ルイスの勝ち。地面を掘って死体を隠し、川下りを再開する一行。せっかくの川下りももう全く楽しげではありません。そして、先頭のカヌーをこぐドリューに異変が。様子がおかしくなり、川に転落します。こぎ手を一人失ったカヌーは激流に巻き込まれて大破、後続のルイスとボビーのカヌーも転覆し、窮地に陥ります。この転覆シーンがまたすごい迫力です。

なんとか激流を生き延び、水の中で体勢を立て直したエドとボビーですが、様子のおかしかったドリューの姿が見えません。そして、ルイスは足が折れているようで、苦しんでいます。ルイスを近くの岩の上に横たえると、苦しみながらもこんな台詞が口から漏れてきます。

「ドリューは撃たれたんだ、あのもう一人のやつだ」

川を望む崖の上から、さっき猟銃を持って逃げ出したヒルビリーが、復讐のため一行を狙っている…
岩陰に隠れているうちはいいが、一艘残ったカヌーに乗って川を下ろうとすれば上から丸見え、かと言って暗くなるまで待っていては、先に見えている急流は渡れません。そうこうしているうちにも負傷したルイスの容態は悪化してゆきます。映画「Deliverance」、実はここからが真骨頂なんですが、ここからは最後まで息もつかせぬ展開です。

結末が気になる方はぜひ、DVDを借りて見て下さい。お薦めです。
筆者は原作の小説も読みたくなりました。

Deliverance

Deliverance

  • 作者: James Dickey
  • 出版社/メーカー: Macmillan
  • 発売日: 1972/03/10
  • メディア: ペーパーバック



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。