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今日チャック半開だったあなたへ [日記・雑感]

今日、チャック半開だったあなたへ。

突然申し訳ございません。しかしながら、あのギュウギュウに混んでいた南北線の埼玉方面行き最終電車にいた有象無象の中で、あなたを特定するためにはそう言うしかないのです。仕事帰りらしき背広姿の、30代の男性はそれこそはいて捨てるほどおりましたし、その中で吊り輪に片手を預けてもう片手で携帯電話を操作していた人と言っても特定どころか、かえって特定できない事を強調するようなものでございます。

そのようなわけであなたの事をチャック半開だったあなた、と呼ばせていただくのですが、確かに半開でありました。その時あなたは気付いておられなかったのでしょうが、帰宅したときにはきっと気付かれたでしょう。あのとき、あなたのズボンのチャックは見事に半開でした。「ちょっと開いてる」というには大きく開き過ぎ、また「大きく開いている」というには微妙な開き。実生活でチャックの開いている人を見かける事はままあれど、あそこまで完璧にフィフティ・フィフティに半開きになっているチャックを見たのは、わたくしの33年にわたる人生の中でも初めてのことでございます。そのため、チャック半開のあなた、と仮に呼ばせていただいているのでございます。

お気を悪くされたなら申し訳ございません。しかしながら、わたくしがチャック半開だったあなたにお伝えしたいのは、実はチャックの事ではないのです。それはチャックに近く、かつチャックではないものでございます。それは、実を言うとあなたのお締めになっていたベルトなのでございます。

あなたは多少大柄な方で、ウェストのサイズは90cm弱と見受けられました。しかしながら、お締めの茶色のベルト - 多少年期の入ったもの - は「遊び」がかなりあり、120cmまで対応のフリーサイズのものかと思われます。あなたはそのベルトの遊びの部分を律儀にベルトループに通せるだけ通し、ベルトの先端はもはや胴体を一周半ほどしかねない勢いでした。先端部分は腰の右の張り出した骨を通り過ぎ、臀部にまで達しようとしていたと記憶しております。そして・・・ああ、ここからが本題なのでございます。

ご存知の通り、紳士用のベルトには5つの穴がデフォルトで開いております。ベルトのバックルのところで、あの細い金属の棒を通してベルトを固定するのですが、真ん中の穴、つまり左右どちらから数えても3つ目の穴に通せば、バランス良く見えるよう設計されている、はずのものです。(もちろんメーカーや体型によってはその限りではありませんが)それをあなたは、ベルトが長過ぎてすべての穴はバックルのはるか遠くに行ってしまっているため、ご自分で新しい穴を開けてしまわれた。そうですね?

私がそう申しているのは、あなたがバックルの棒を通されていた穴、及び、その周辺にあった穴が、明らかに手作業で開けた物であったからであります。すなわち、商品に最初から開いている穴はきれいに丸く開いており、明らかに工場の機械で強烈な圧力、もしくはかなり鋭利な穴開け工具、もしくはその両方を組み合わせて華麗に奇麗に開けられたはずのものなのですが、あなたの半開チャックの上のあたりにあった穴はすべていびつだった。わたくしは勝手ながら、あなたが最初に針のようなもので穴を開け、次いでつまようじのようなもので穴を広げ、最後にバックルの棒をねじこんだためそのような穴ができたのだと推察いたしました。というのはわたくしが大学時代にアルバイトをしていた職場で、まったく同じ事をしていた同輩がいたためでございます。介護士という高貴な職についた彼ですが職場に恵まれず転々として、今は何をしているのでしょうか。

少し話がそれました。穴の話に戻ります。そう、思い起こせば12年前、わたくしは、本来5つであるべきベルトの穴をどんどん増やして10個にもしようとしている彼を見とがめたのです。(もともと開いている穴から同じ間隔で穴を開けていくのは、人のさだめかと存じます)そしてこう進言したのです:

「なあM村くん、そのベルトなんやけど。ちょっとバックル外してみい。・・・いや変な意味やないから。まあまあ・・・そうそう。ほんでバックルの裏見てみ? 金属のギザギザしてるとこがあるやろ? そこに、なんか適当な・・・そうやな、そこのマイナスドライバーがええかな。それの先っちょでベルトの革に食い込んでるギザギザのところに入れてひねってみるんや。まあええから。だまされたと思ってやってみい。」


そして、彼のベルトのバックルは(小さな)音を立てて開き、ベルトそのものがバックルから外れたのでございます。わたくしが、「あとは好きな長さに切るだけや」と言う必要もなかったのでは、と思われるかもしれませんが、彼はまるで「氷は溶けると水ができるのに、ドライアイスは溶けても何もできない」ということを理科の時間に教わった子供のようにポカーンとしていたのです。その沈黙に耐えかねて、救いの手を差し伸べる気持ちでの発言でしたが・・・ひょっとすると、彼のプライドを傷つけてしまったのかもしれません。フリーサイズのベルトはバックルを開けてベルトを切って調節できるからこそ「フリーサイズ」なのだということをいい歳こいて知らなかったと、他の同僚の前、しかもけっこう可愛い女の子を一名含む中で見せつけてしまったのですから。でもこの二人、そのあとつきあい始めたんですよねえ。今では別れてしまっておりますが。世の中わからないものです。

また話がそれました。さて、チャック半開だったあなたは今どうされているでしょうか。この手紙を悪質ないたずらだと思って笑い飛ばしておられれば幸いでございます。フリーサイズベルトの調節方法がわかってお喜びなら、さらに幸いでございます。しかし、もしも・・・あなたが、恐ろしい事実に気付いてしまわれたのなら・・・それもわたくしの言う通りベルトを切って調節した後に・・・どうかご容赦いただきたい。「ベルトを切って縮めてジャストサイズにしたところで、手作業で開けた穴はそのまま残る」という事実は揺るがしがたいものなのでございます。バイト先で一緒だった彼はそう思っていたようですから。その場合はどうか、次に購入されるフリーサイズのベルトに対して、穴を開けるよりも上記の対応でしていただければと思います。

最後に、このような事を突然、あなたのカバンにメモを忍ばせるという形でしかお伝えできなかったわたくしですが、どうかご容赦下さい。なにしろ、チャックが完全に半開で、そのすぐ上には手作業で穴をポコポコ開けられたベルトがあり、それが座席に座っていたわたくしのすぐ目の前にあったのですから、わたくしは気になってたまりませんでした。何のアクションもとらなければ、わたくしは自責と後悔の念にさいなまれて眠れぬ夜を過ごしたことでしょう。明日は昼までに羽田に行って大阪に飛んで久々に遠距離恋愛の彼女と水入らずな時を過ごさなければならないというのに。

また話がそれてしまいましたが、わたくしの12年前の逸話から、あなたに直接お伝えすることがはばかられたことを理解していただけますと幸いです。また、これだけ色々とお話したあとで大変恐縮ですが、ベルトはフリーサイズものよりサイズの決まったもののほうが品質が良い場合が多いということも合わせてご承知下さい。わたくしも、それに気付いてからはフリーサイズは「卒業」いたしました。

以上

善意の同乗者より


追伸
よい連休を過ごされますように。



* * *



終電で帰る途中に、そんな手紙を前に立っていたチャ(略)の男性のカバンか上着にそっと入れてやりたい、と思ってしまった筆者でした。
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